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3、カンナの花/美人蕉花

  唐沽から天津へ

  夕ぐれ發の貨車に乗らなければならない我々

  汽船ふねから降りた我々

  潮の匂ひを身につけて

  カンテラ一つの貨車の中で體臭を攪拌し乍ら速力と共に夜に入る

  火車は一等も二等も今はない

  群集は平等だ、汗だらけだ、くらやみだ

  水田を走れば水明り

  戰後の名残りは各國駐在の兵營のラツパからきいた

  群集は身動きの出來ない貨車の中で牛や馬の影を持つ

  隅つこで押され通しの若い百姓娘と大きな荷物は人々の眼に入りきれない

  一人の軍人は湖南語で「不怕死」を説く

  おれは人にまみれて小さい天窓から大陸の夜天を仰ぐ

  おれは直隷平野のくらやみの中の聲をきく!

  火車は一しきり水を動かし

  青葉のトンネルをだんだら模様に描いてつっ走る

  停らない驛々のカンテラの灯は眩しい

  可愛らしい兵士の持つ銃劒の光りをはつきり見た

  雑音雑臭の中から外國がへりの自分達を製へるのは何の力だ!

  火車は人の歩行程度に動いてゐる

  カーヴをする度に牛や馬のざはめく音聲は痛ましい

  汽船から降りたわれわれは潮の匂ひをわすれてはゐない

  ほんの少し潮の匂ひがゆれてゐる

  かの「不怕死」に力む「黄浦」出らしい士官は我々の匂ひに近よらうとする

  我々はまた天津市街の明るい空ばかり案じてる

  さつきのんだビールの氣泡は空腹を知らせる合圖になりさうだ

  天草女をふりきつて此夜行車に投じた者は一眼見ればすぐ判るんだと、Aは笑ふ

  (唐沽から天津へ!)Bの心をおれはのぞく

  何時着くかわからない慢車,の中の空氣はたつた一個所の出入口から消えなければならない!

  おれは今は唯あいつに耳かたむけてゐる

  ほらね、きこえるだらう?

  おれは直隷平野の暗の中の悲しい聲!

  おれはがつしりとこの小さい生存競争に重點をおくが

  胸にこみ上げて來る思想を追ふまい!

  われわれの歌ふあの唄もこのくらやみの中では見出せないのだから……

  火車はぽうと夜の中に流れ

  速力を忘れてはおれ自身のさびしい單音モノトンにききほれてゐる

  暗の中の長蛇先頭の氣味惡い火粉は見えないが腹の中の眼に映じた繪だ

  我々は水田を渡り青葉のざわめきを分け、石炭の匂ひを散らし

  戰後の直隷平野を匍匐する

  天津へ近づいて行く!

  从塘沽到天津

  不得不搭乘夕发货车的我们

  从轮船上下来的我们

  周身粘满大海的潮腥

  在只有一盏马灯的货车厢里搅拌着体臭,与速度一起向夜晚挺进

  火车此刻已没有一等和二等之分

  所有的人都同样平等,只剩下汗水和暗黑

  火车在水田上飞奔,引得光影粼粼

  从各国军营的号声中听到了战后的余音

  在不能动弹的货车里,与人们为伍的是牛马的身影

  百姓姑娘和庞大的行李被挤在墙隅里,密不透风

  一个军人用湖南话教训大家“不要怕死”

  我混杂在人群中,从小小的天窗里仰望着大陆的夜空

  倾听着华北平原在黑暗中的呐喊声!

  火车一时间撼动着河水

  慢腾腾地穿行在绿叶掩映的隧道间

  没有停靠的车站上,马灯是那么刺眼

  那些可爱的士兵们,手上的刀光清晰可见

  我们在杂音和杂臭中从外国回来,那控制我们的究竟是何种力量?

  火车缓缓行驶,就像人在徒步而行

  每当拐弯时,牛和马的喧闹声就越发令人心碎

  从轮船上下来的我们并没有忘记海潮的气味

  这不,潮水的气味在眼前东摇西晃

  那个因“不怕死”而备受鼓舞的“黄埔”士官正试图接近我们的气味

  我们只顾惦记着天津城内明亮的天际

  刚刚喝过的啤酒气泡竟成了预告饥饿的暗语

  A笑着说道,一眼就能看出,谁是为了赶上这趟夜行列车而抛下天草女的小子

  (从塘沽到天津!)我一直窥伺着B的内心

  这不知何时抵达的慢车,只有一个出入口可以排气!

  此刻,我只是倾听着那家伙的话语

  瞧,能听见吧?

  我就是这华北平原黑暗中的悲音!

  我只关注着这小小的生存竞争

  而无意追踪那涌上心头的思绪!

  因为无法在这黑暗中找到我们所吟唱的那首曲子……

  火车恍恍惚惚地流淌在夜色中

  忘记了速度,只是出神地倾听着自己寂寞的单音monotone

  黑暗中,看不见长蛇阵前头的可怕火粉,但它却是映现在腹中眼睛里的场景

  我们穿越了水田,拨开了绿叶的喧嚣,撒播着煤炭的气味

  在战后的华北平原上匍匐前进

  啊,我们正向天津靠近!

  戯歌

  即興

  カアニバルの雪の夜

  顔のわるい踊り子ら

  ジヤズの前でふるへてる

  風邪のマスクのづ、く、人、は

  プレンソーダで隅にゐる

  踊る氣もちが出てくれば

  悲しい人と踊るのに

  やつはぎろりと二つの眼

  やつはテープを投げてゐる

  テープはぶ、す、け、の面を打つ

  カアイバルの雪の夜

  風邪のマスクのづ、く、人、は

  エ?フツリツヒ?ホンブルク

  やつは青い灯ひ、汽船ふねの窓

  やつはぎろりと二つの眼

  ゆれてるのは赤い靴

  港の三時の薔薇の鐘

  やつは疲れてとんろりと

  ジヤツク·ナイフのごつい夢。

  戏歌

  即兴

  狂欢节的雪夜

  脸色苍郁的舞女们

  在爵士乐面前直打寒栗

  带着伤风口罩的秃顶胖子

  喝着苏打水,呆立在墙隅

  如果有心跳舞

  也是和悲伤者起舞

  这家伙滴溜溜转动着两个眼珠

  他将带子一投

  打落在丑陋的脸部

  狂欢节的雪夜

  带着伤风口罩的秃顶胖子

  是埃·弗里德里希·洪堡

  这家伙对着蓝色的灯盏和火车的窗户

  滴溜溜地转动着两个眼珠

  一双红鞋在晃晃悠悠

  港口那蔷薇花模样的时钟敲响了三点

  这家伙早已精疲力竭,身体瘫软

  梦见自己粗暴地挥舞着刀剑。

  妹への手紙(1)

  左記へ轉居した!

  一軒家をかりた!

  日本東京市外和田堀町和泉二四三!

  移つたところが遠いので

  お前のところへ上げるたよりも

  何だか他人らしくなりさうだが

  そんなことはゆるしてくれるだらうね

  新鮮な森の空氣と

  武蔵野の落葉の匂ひ

  青い大根畑の夕月

  ——一寸こんな風景を聯想してくれ

  今年のクリスマスには

  お前の好きさうな銀の燭臺をおくらう!

  銀の燭臺と私の寫真とをね

  忘れてた

  あの毛糸の股引と

  キツスリンのお菓子ありがたう!

  今日は一日いゝお天氣だつた

  富士山がよく見えて

  妹よ!

  私の仕事場の窓のいゝ眺め

  私はこの頃夢中になつて仕事が出来る

  心もたのしい

  お前こそ少し遊んでおくれ!

  寒くなるので身體を大切にせよ

  夕方は早く灯をともすんだぞ

  たまには母と一しよに皇宮電影へ行つてもいゝよ

  ストーヴがないので

  僕は火鉢をかこんでゐる

  お前の方の學校は如何どう?

  お前と母の事!

  いろいろ考へたり思つたりしてゐる

  そして寧馨よ!

  お前には見えないがこの美しいおくりものゝそばに僕はゐる

  お前には見えないが

  ほらこのカアネシヨンとアスパラガス!

  この家の近くに中世紀の水門や

  ブラマンタの風景や

  清い小川や珍しいものがいろいろある

  が少しおちついてから詳しく知らせよう!

  十一月二十三日。火曜の晩

  天津南開大學黄寧馨へ

  お前の兄より。

  致妹妹的信(1)

  我已搬迁到下列地址!

  我新租了一间房子!

  日本东京市外和田堀町和泉二四三!

  因为搬迁地是如此遥远

  以至于写给你的信函

  也变得莫名地疏远

  对此,想必你也会觉得情有可原

  森林新鲜的空气

  与武藏野落叶的气息

  还有映照在蓝色萝卜田里的月影

  ——你不妨设想一下这样的风景

  今年的圣诞节

  就送你钟爱的银蜡台吧!

  对,还要加上我的照片

  我忘了说

  谢谢,谢谢你寄来的毛线秋裤

  还有起士林的糕点!

  今天一天都风和日丽

  富士山清晰可见

  妹妹啊!

  我伏案工作的窗外到处是美丽的风景

  这阵子,我得以别无旁顾地专心工作

  心情也自然舒坦

  你也给我玩得开心点!

  天气渐冷,你要多多保重

  傍晚要早早地点灯

  偶尔不妨和母亲去皇宫影院看场电影

  因为没有火炉

  所以我一直捧着火盆

  你的学校一切可好?

  我惦记着你和母亲!

  我在这里左思右想

  啊,宁馨啊!

  尽管你看不见,但我此刻就置身于这些美丽的礼物旁边

  尽管你看不见

  不信你瞧,这些康乃馨和龙须菜!

  这房子附近有中世纪的水闸

  弗拉曼克式的风景

  清澈的小河和各种稀奇的物品

  等我稍事安顿后再向你慢慢道来!

  十一月二十三日。星期二晚上

  致天津南开大学黄宁馨

  寄自愚兄。

  妹への手紙(2)

  可愛いIren!

  しんみりする雪の夜に

  先づ靜心を得やうとする者の思服を考へてくれい

  案じるものよりも案じられるもの

  始末に終へないやつだが

  何がなしの身にさみしさをつけると

  いち早く眼が輝やくこの頃の兄を忘れないでくれい

  可愛いIren!

  すべてよりも馬齡を加へて重くほゝゑめる人の顔

  にくしみ、喜び

  今年こそはそんな一本氣はよさう

  お前の云ふ喫煙はゆるせ

  これは退屈と慰安のけぶり

  けれど酒は赤く、苦しく、みにくゝさせる

  だからいゝ、だから心配しないで

  お前の想像は決してわるい兄にはしやしまい!

  可愛いIren!

  兄は寒さに堪えた

  お前と離れてから邪念でもないことに苦しんだ

  兄のFavouriteは遠のいた

  思念といふやつの力は日頃よりも弱く

  それよりも以外なことで大きになやみ、怒らなければならない

  太く波うつものが影を持ち

  今では夕暮の千切れ雲にも話しかけたい位だ

  風が冷んやり心を透き通る時

  あゝ私は狂ふ代りに烈しい氣もちでたまらない!

  可愛いIren!

  この二三日、私は『ピレニー守備隊の唄』を口にしてる

  妹よ、國境ほど私を惹くものはない

  局部的にふるへてる私達の國

  『國を思ふと腹が立つ』

  この言葉にこゝの國の藝術家は不健康な嘲笑をするのだ!

  可愛いIren!

  今夜は掌てをみつめ

  指をみつめ、爪をかみ

  おのれ自身をこの部屋の煖爐の炎に染める

  思ひはこんな時どこまで廣く長く尾を引くか?

  言葉を思ひ浮べても寒い夜よ!

  可愛いIren!

  いろいろな近況と用事とはお前の待つ次の便船にのせよう——

  兄はかの西北へ行つた若い將軍のことを思ふ

  兄は彼を愛す

  あの刺刀は利れすぎたかも知らん

  でも鈍い大刀よりは中部亞細亞の天そらに光つた

  兄は生命を花だと思ふ

  兄は夢をかろくかろく見たい

  兄はいつもお前に云はれる駄々つ子

  神が祝福する天地にあくがれる!

  可愛いIren!

  この八日はこの國の陸軍始の觀兵式!

  丘から下りてあの一月の風の練兵場へ

  それから「ヴオルガ·ボートマン」を見に行つた

  新しい制服に砂ほこりをつけて……

  いゝ寫真だつた!

  お前も機會があつたら見るといゝ

  そちらは忙しいのであのスクリンの世界を忘れてるだらう?

  たまには人をもて遊ぶ印象の奥へもぐるのもいゝ

  可愛いIren!

  私達の母上は今夜もあの寂しい部屋に在はすだらう

  外は風がもの凄く嘯く華北の夜天

  星はお前達を鋭くさせるのをいつも私は恐れる

  お休みなさい!我が母と妹!

  春がくる日までに兄の小さいヂツクザツクもなくなつてるだらう

  雪のこの夜の物音をきゝすましては

  たまらなくなつてこの手紙を書きしるす

  いつも健やかで正しいため

  いつも朗やかで凛々しいため

  兄は大きななやみにも泣けやしない!

  唯、この次眼をつぶりたいのだ!

  Iren!

  ペンを持つ以上に

  たまらないものが迫つてくるからね

  私の一人の妹寧馨!

  お前の一人の兄宇比雄

  致妹妹的信(2)

  可爱的Iren!

  在静静的雪夜

  不妨先听听渴望等到灵魂平静者的心声!

  我与其说总是牵挂别人,不如说总是被别人牵挂

  别忘了眼下的哥哥

  尽管是个让人棘手的家伙

  可一旦寂寞缠身

  也顿时会两眼放光,炯炯有神

  可爱的Iren!

  你那吃着马铃薯比吃什么都高兴的笑脸

  不管是对仇恨,还是对欣喜

  今年的我们都别再那么死心塌地

  请原谅我辜负你的殷殷相劝,没有戒烟

  它是无聊和慰借吐出的烟幕

  而酒精却只会让人脸红、丑陋、痛苦

  所以还算好吧,所以你不必惦记

  别在糟糕的哥哥身上发挥你的想象力!

  可爱的Iren!

  哥哥忍受着寒冷

  与你分手后,一直苦恼于并不邪恶的意念

  哥哥的Favourite已渐行渐远

  名叫“思念”的力量却比往日更加衰减

  不能不为其他的事情伤透脑筋,怒火冲天

  汹涌澎湃的东西总是有影子相伴

  如今甚至想对夕暮的断云诉说衷肠

  当风儿冷飕飕地刮过心灵时

  啊,我没有发狂,只是心潮激荡!

  可爱的Iren!

  这两三天,我嘴上一直哼着“比利牛斯卫队之歌”

  妹妹啊,没有比国境线更让我痴迷的尤物

  我们的祖国正在局部地哆嗦

  “一想到祖国,就会怒上心头”

  这个国家的艺术家却对此话发出病态的奚落!

  可爱的Iren!

  今夜我注视着手心

  注视着手指、指甲

  让这房间里的炉火染红我自己

  此时,思念将把又长又粗的尾巴伸向哪里?

  这是个难以名状的寒冷夜晚!

  可爱的Iren!

  我将把各种近况和要事装上你等待的下一班邮船!

  哥哥正想着那位远赴西北的年轻将军

  哥哥爱着他

  不知道那把刺刀是否太利太尖

  与钝刀相比,它在中亚的天空中更加耀眼

  哥哥把生命视作鲜花

  哥哥只想有个简单的梦想

  哥哥一直是你所说的撒娇大王

  憧憬着被神祝福和守望!

  可爱的Iren!

  本月八号乃是这个国家陆军的首次阅兵式!

  从山丘走向那被一月冷风吹拂的练兵场

  然后去看“伏尔加船夫”

  不惜让沙尘粘在崭新的制服上……

  真是一部不错的电影!

  有机会你也不妨去观赏

  你那么忙碌,没准已经忘记了那个荧幕的世界?

  其实,也不妨偶尔潜入那玩弄人的映像深处去徜徉徜徉

  可爱的Iren!

  我们的母亲今夜是否还在那冷清的房间?

  外面是狂风肆虐的华北夜空

  我总是害怕星星会把你们变得过于敏感

  晚安!我的母亲和妹妹!

  不等春天来临,哥哥这小小的波折也会归于平静

  侧耳倾听着这雪夜的声音

  我情不自禁,写下这封信

  因为哥哥我总是健康、端正

  总是开朗和凛然

  所以,在天大的烦恼前也决不会哭泣!

  只是我接下来想闭上眼睛!

  Iren!

  因为有东西正在迫近

  比提笔疾书更痛苦难忍

  我唯一的妹妹宁馨!

  你唯一的哥哥宇比雄

  酒保にて

  修羅の巷に酒をくみ

  『二つ星』らと事を爭ひ

  おのれ夜雨にしつとりぬれ

  柱にもたるゝ男のうたふ歌

  ビール一本は小夜時雨

  ビール二本は波の音

  三本目はよう……

  眼ににじみたるこの厩の灯

  のどを鳴らせばきゝほれる人々

  雨はつのりて窓を打つ

  『二つ星』らは江戸つ児、和して忽ち轟く

  ……三本目はよう

  三本目はほんのりさくら色!

  在酒保

  在阿修罗的小巷里把酒啜饮

  与“两颗星”注的他们一阵争执

  此刻已被夜雨濡湿

  男人斜倚在柱子上,哼着小曲

  第一瓶酒是夜晚的骤雨

  第二瓶酒是波浪的声音

  第三瓶酒则尽显醉熏……

  渗进眼睛的是这马厩的灯影

  一放开歌喉,人们就会忘情地倾听

  雨点越来越大,敲击着窗棂

  这帮“两颗星”的江户仔们,突然应合着大声轰鸣

  ……啊,第三瓶酒已尽显醉熏

  第三瓶酒泛起了樱花般的粉红!

  富士の驟雨

  雨くもがね、どんと迫る瞬間、稲妻がパツとくる

  愛鷹も箱根群山もお山も忽ち天となる

  ピカツ!ゴロゴロ!バラバラと來る

  ザアザアザアつぶてのやうな雨がくる

  杉林もバラツクも

  この突撃部隊にはかなはない!

  水沫か、自刃か、恐ろしい雨だ

  十加農のやうな雷の音

  テンポウ以上のこの勇しい天然の清掃

  廠舎では乾場まで兵隊が飛んで行つてぬれてかへつてくる

  傾斜した登山道を下る流れの速さ

  陰天凄然たるところから銀の征矢!

  それがさつと萬物をぬらし、すべてを洗ひつくせば

  からりけろんとした西方の光り

  雲が行く四方に現はるゝ新興大和繪の山々

  青葉の六月の匂ひは生き生きと大空に高い!

  お山の雪に反射する色彩と光線

  ぽかんと見てれば登山道をひた走る馬車の風

  あゝ、今こそ裾野は夕ぐれの靜安地

  その時だ!夕飯のラツパが天に昇り

  われわれの眼にあの甘つぽい初夏の思ひ出がある時は

  どこかでオルゴールの音のする思ひが浮かぶのは……富士的骤雨

  阴云迫近的瞬间,倏地一道闪电

  爱鹰山和箱根群山,猛然与天空连成一片

  电闪、雷鸣——稀落的雨点

  哗啦啦,下起了瓢泼大雨

  杉树林和木板房

  早已招架不住这支突击队!

  可怕的骤雨如水沫,如白刃

  雷声震天,赛过十门加农炮

  真是一场比大迁徙还果敢的天然大清扫!

  在驻地里,士兵们奔向晒场,又湿漉漉地转身折返

  水流顺着倾斜的山坡湍急而下

  恍如从阴霾深处射出的银色利箭!

  等它一下子润湿了万物,冲刷了一切

  随即从西边升起若无其事的光环

  在乱云飞渡的四周出现了新兴大和绘中的山峦

  六月的嫩叶清香盈盈,弥漫在天空!

  色彩和光线在山上积雪的反射下更加耀眼

  木然望去,马车疾驰在山道上,掀起一阵风

  啊,此刻山脚的原野成了傍晚的安闲之地

  就在此时!晚餐的号声升上了天空

  当那甘美的初夏回忆浮现在我们眼前时

  顿觉某个地方传来了八音盒的乐音……

  悲劇について

  月下の悲劇は甘すつぱい

  窓には戀がある

  大理なめ石の噴水ふきあげと薔薇の匂ひ

  ギターを奏でる伊達者と姫の顔

  眼と眼とがものを云はうとする

  さもなければもつと簡單だ!

  大川端の灯と柳

  しんみりとろり浮世繪の雪月夜

  蛇の目の傘影にぴつたりよりそつた二人

  ぴつたりよりそつた二人

  人々には最初の一日でこの氣持ちにかくれる

  美しい臺詞が冴えざえとひゞく

  舞臺装置が乙に見え出す

  だから悲劇とは?

  こんな言葉は新しい人からにらまれる價値がある

  皮肉と才気とはそれだけの新しさしか見せないので……

  だから何だ?

  ばかつ!ばかつ!

  妙なグロテスクが來らあ!

  われわれは『悲劇』に飽きたとも云へる!关于悲剧

  月下的悲剧是甘美的

  而恋情就在窗边发生

  大理石的喷水池和玫瑰的芳香

  弹着吉它的侠客和公主的姣容

  四目交汇,试图传递着什么

  否则,一切该有多么简单!

  大川岸边的灯饰和柳絮

  活脱脱一幅浮世绘中的雪月之夜

  两个人偎依在蛇纹的雨伞里

  偎依得好紧好紧

  让人们第一眼望去,就顿觉其中藏匿着悲剧

  美丽的台词发出清澈的回声

  舞台装置也看起来别有趣旨

  那么,何谓悲剧?

  这说法自有被新人们关注的价值

  因为讽刺和才气只能表现出那么点新意……

  所以,那又如何?

  傻瓜!真是傻瓜!

  这可真够奇妙和怪异!

  也可谓我们已厌倦了“悲剧”!

  喜剧

  1

  笑ひのスペクトルよ

  人が笑ふのがお芝居か

  笑ひがころがるのがお芝居か

  美人ばかり出てくるのが人生か

  社會にはこんなにも屑がゐるのか

  高速度がペンキ色で

  のろまがぼんぼり色だと云ふのか

  2

  喜劇!

  西洋らしく氣取つて云ふ

  おゝ!それはあまりにも恐しい!

  長口上にはり·ん·ご·をぶつけてやれ

  假面をとれば空腹だ

  ミルクとビフテキの榮養食料を興へよ!

  あの熱情家を舞臺へ立たせるな!

  3

  喜劇!

  ワツショワツショ

  男の役は女には受取れない女のは女にも……

  そして妙な、獵奇的な點はキザなこと夥しい

  あの幅廣にふるへて來るやつ

  それが朗らかであればいゝが

  むしろ滑稽じみて悲しいことがある。

  喜剧

  1

  笑的光谱啊

  难道要人们笑才算是戏剧?

  要笑得前仰后合才算是戏剧?

  难道只有美人出场才堪称人生?

  难道社会上真有这么多的渣滓?

  难道说高速度就是油漆的颜色

  而慢性子就是纸罩腊灯的颜色?

  2

  喜剧!

  这说法带着西洋式的矫情

  哇!这未免太过可怕!

  不如赶快用苹果封住他饶舌的嘴巴!

  一旦卸下假面,早已是辘辘饥肠

  不妨喂他牛奶牛排等营养粮饷!

  千万别让那热情之徒站在舞台上!

  3

  喜剧!

  嘿吆嘿吆!

  扮演男角自不用说,就连扮演女角也不被女人认可……

  而诡异的猎奇之处也充满了矫饰

  瞧那家伙直打哆嗦地走来

  但愿他开朗才好,可是——

  毋宁说倒是滑稽得有些悲哀。

  カンナの花

  凡そおもしろい夏の一日ではない

  曇天の灰白は重く胸を絞る

  風景の中の縦の線

  樹、電柱、煙突、油蟬のヂイヂイ

  窓を見下した眼に

  カンナの花きいろく、紅く……

  ×

  遠景——

  時計とラヂオと正午を告ぐる

  高い高い煙突

  森の頂上てつぺん

  動かない空一ぱいに油蟬なく

  カンナの花も動かない

  紅いカンナの花、きいろい花。

  美人蕉花

  并不是美好夏季中的某个日子

  阴天的灰白沉重地挤压着胸壁

  一道道竖线从风景中纵向划过

  树、电杆、烟囱、秋蝉的聒噪……

  从窗口俯瞰出去

  红黄的美人蕉花争艳斗奇……

  ×

  远景——

  时钟和收音机宣告着正午的来临

  高高的烟囱

  矗立于森林之顶

  秋蝉在岿然不动的天空中唧唧啭鸣

  而美人蕉花也同样岿然不动

  啊,红色的美人蕉花、黄色的美人蕉花。

  小唄

  柳娘にまつ男

  春は十八

  夏川端の

  銀の夕立、琴の音

  冬は古りたる白い雪

  片思ひだけせまいもの

  首にびつちよりぬれるもの

  胸に針ほどの傷。

  小调

  窈窕柳姑,松男好逑

  人生十八,最是春天

  炎炎夏日河岸边

  银色骤雨突来袭,周遭琴声起

  苦等未果冬已近,白雪染两鬓

  单恋之心最偏狭

  惊觉脖子已湿透

  针大的伤痕在胸口。

  八 月の夜

  森がくれて海となる

  海の中の一人となる

  一人だからさみしい

  卓上燈をつけてぽつねんとゐる

  (これが曇り日のつゞき)

  でも、オレは平然としてゐる

  この海風は潮くさくはない

  脊のびして水平線上を行く汽車の灯を見る

  見えなくなれば又頬杖をする

  蛙の聲が聞こえる

  すゐつちよんが鳴いてゐる

  まだ雨とはならない

  しめつぽい、涼しい夜の大氣

  墨でぬりつぶした風景

  秋がもう眼の前につゞく

  タバコのけぶりとその影

  すゐつちよんの聲が身にしみる

  きいろい壁の前でオレは眼をつぶつてゐる

  八 月之夜

  入夜,森林摇身而成大海

  而我则成了大海中的孤人

  因为孤身一人,所以好不凄清

  点亮台灯,孑然独坐

  (这是阴天的继续)

  然而,我却泰然自若

  这海风竟然没有潮水的腥味

  一伸个懒腰,就看见火车疾驶在水平线上的灯影

  只等那情景一消失,我就又开始托腮沉思

  听,传来了青蛙的叫声

  还有蚂蚱在啼鸣

  分明还没有到下雨天

  可夜晚的大气已尽显凉爽和潮润

  到处是用水墨涂抹的风景

  秋天已经在眼前大肆铺陈

  香烟袅袅升腾,落下它的影子

  而蚂蚱的叫声正侵入身体

  在黄色的墙壁前,我正双目紧闭

  N·NからN·Nへ

  しもんぬよ、秋の哀れは夏からだ

  夏の哀れは春につゞく

  春は眩しかつた、あの和やかな太陽

  いや、白い白い冬、十二月の雪

  しもんぬよ、考へることはたのしいことではない

  森や林がきいろくなれば

  人を戀ふる思ひも切なくなるものぞ

  しもんぬよ、季節なぞ思ふまい

  だが、もう少しきいてくれ、しもんぬよ

  朗らかな男にも哀れな眼がある

  愛しい人にもおもしろい笛がある

  呪ひの前に嘆きを投げてこの淡いニヒルは灯のやうに明るい

  しもんぬよ、へこたれた、いやへこたれない眼も明るい

  十月は虫の音がほそぼそと身にしみて聞える

  肌に冷えびえする夜はずつと長く尾を引くだらう

  もう、星天ときいろい壁の繪は見飽きた!

  N·N致N·N

  秋天的悲哀其实是始于夏天

  而夏天的悲哀则与春天息息相连

  春天令人目眩,只因那柔和的光线

  不,还有那十二月的积雪,白皑皑的冬天

  西茉纳啊,思考并非一桩乐事

  一旦森林开始枯黄

  对人的思慕也会变得痛切和绝望

  西茉纳啊,我已决意不再顾念季节

  但且听我再说一句,西茉纳

  开朗的男人也自有悲哀的眼睛

  可爱的人儿也自有美妙的笛子

  在咒语面前投掷叹息,这淡淡的虚无也会像灯火般明丽

  西茉纳啊,这疲惫的,不,没有疲惫的眼睛也同样明丽

  十月,虫子的啭鸣隐约传来,渗入身体

  想必冷彻肌肤的夜晚会曳着长长的尾巴

  而我早已看厌了星空和黄色的壁画!

  劇歌

  十字の花はほの紅く

  人のよき鼻めがね

  たぐりよせたる顔へタバコのけぶり

  あはれなるかな、たはむれは

  ×

  酒によつても眞實が

  ちらりと眼に出る可愛い男

  いやらしい眼ぢやけどつやがある

  見つめられてる白い花。

  戏歌

  十字花泛着微红

  戴着夹鼻眼镜的好心男

  朝她拽近的脸上吐着烟圈

  啊,这游戏竟透着悲凉和虚幻

  ×

  可爱的男人也会因酒精

  偶尔让真实惊现于眼睛

  尽管它让人生厌,但却光芒熠熠

  啊,白色的花儿正被它凝眸而视。

  士官學校の夜

  オレは小便をする

  夜寒がメスのやうに鋭い

  アンモニヤの匂ひに欣々とする眼と鼻

  窓外には森のシルウエツトがつゝ立ち

  塀外をアラビヤの唄が下駄ばきのまゝ通る

  彳んでると大切な一つ身が冷えびえしてくる

  この安閑な靜けさはしんしんと身にしみる

  耳もとには不思議にも聞こえてくる時計のチクタク

  オレは便所の一角に柱時計を探さうとして

  左腕の青光りするものを見た

  『十一時十三分』の丁々たる音よ!

  ——……——

  その音が消えれば上へ行くほど階段の月は眩しい!

  寝室のベッドの暖かさに包まれた影法師のないオレ

  寝室の戸そ外とはみしみしと凍てつき

  ビルマの影繪が窓硝子を恐ろしく動かしてゐる

  眼を外らすと規律よくずらりと並んだ戰友の首、首、首

  死んだ者の姿は氣味が惡い!

  夢を見ようとひるがへれば木枯の攻撃が遠吠えする

  あゝオレはつひまた忘れてた顔を引きよせた!

  士官学校之夜

  我起床撒尿

  夜晚的寒冷锋利得有如手术刀

  眼鼻因阿摩尼亚的气味而一阵亢奋

  窗外伫立着森林的剪影

  阿拉伯小调和着木屐在墙外穿行

  一站着不动,整个身体就变得冰冷冰冷

  这安闲的静寂渗透了我的全身

  耳边竟神奇地传来了“嘀嗒”的钟声

  我试图在厕所的一角找到那挂钟

  不料却看见左腕上有什么在青光闪烁

  喔,这是“十一点三十分”的报时声!

  ——……——

  那声音一旦消失,越往上走,楼梯上的月光就越是刺眼!

  在室内,我被裹挟在床铺的温暖里,不见自己的影子

  而寝室外面则早已冷得雪冻冰封

  缅甸的皮影戏正可怕地摇晃着窗户的玻璃

  掉头一看,周围整齐地排列着战友的一个个脑袋

  死者的形象直让人毛发竖立!

  我欲翻身做梦,却只闻寒风的攻击在远处吠泣

  啊,无意中我把那张忘却的脸又拽回了记忆!

  鏡中風景

  シャツの袖口の白さを見てる

  くろい手の霜やけを悲しむなかれ

  脊中が寒い原因は?

  一、煖爐が心臓だけなでて行く

  二、今夜の雪模様

  三、巷の灯が戀しいetc,

  ★

  うぬぼれは休暇中失つたものの、名ごりをしい事だ

  水仙の香りを追憶するのは何故惡い?

  實に寒さうな脊面バツク——

  镜中风景

  凝视着衬衫袖口的白净

  别为自己黑手上的冻疮而悲悯

  为何脊背会感到阵阵寒冷?

  一、暖炉只会抚慰心灵

  二、今夜到处大雪纷飞

  三、我怀念着那小巷里的灯影etc,

  ★

  尽管自负已在休暇中丧失,却让我眷念不已

  追忆水仙的芳香有何不妥?

  脊背back上的确弥漫着逼人的寒气——

  銚子ニテ

  ブルブルフルヘテルモノハ足デハナイ

  観音サマノ境内ノ火ノ見櫓

  ソノ上ニ立ツテ川口ニ荒レ狂フ潮ケブリヲ見ル

  波崎ハサキ向フノ砂山ニ驚ク

  風ノ大キナウナリト利根川ノ川波

  潮クサイ君ト僕ノ目前ニ荒涼タル坂東太郎横タハル

  渡シ舟モナイ川面ヲ鷗ガ風ニ流サレタマ、飛ンデヰル

  外套ノ襟ヲ立テテモ風ハ身ヲ刺ス

  眼一パイナ砂ボコリノ空ノマツ赤ナ雲

  色彩ノナイコノ屋根集団ノ何處カノ風見ノ廻轉ノ早サ

  自分達ノ身體ハ浮遊シタ物體ダ

  乾イタ唇カラ音聲モヒビカナイ

  酒ガノミタクナツタト思ハナイカ

  足下ノ活動小屋ノ灯モツイタシ

  オリヤウカ

  天下ハスナハチ古メカシイ港町

  音樂ノ音ガ遠ク氣マグレニキコエテ來ルシ

  オイオイ、シガミツキスギテ段々ヲスベルナ

  氣ヲ付ケロヨ

  マブシイマブシイ観音サマノ屋根ノ金ビカリ!

  在铫子

  直打哆嗦的并不是双腿

  这里是观音庙里的火警了望台

  站在上面,远眺河口上的潮烟汹涌激荡

  惊异于波涛对面的沙丘

  风儿在呼啸,利根川波浪滔滔

  在带着潮腥的你和我面前,躺着荒凉的坂东太郎坂东

  在渡船了无的江面上,飞翔的海鸥任风吹荡

  竖起外套的衣领,也挡不住刺骨的冷风

  火红的云霞漂浮在布满沙尘的天空

  风向标在素色的屋顶群上飞速地转动

  我们的身躯是浮游的物体

  干燥的嘴唇甚至哑然无声

  不想喝点酒吗?

  脚下的活动小屋已点亮电灯

  是不是该下去了?

  自己的天下就是这古朴的港口小镇

  远处传来忽有忽无的音乐声

  喂,别因拽得太紧而从阶梯上滑落

  不妨留点神吧

  那观音庙的屋顶金光闪闪,好不刺眼!

  
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